テツVS夜行バス

「おまえ、さてはテツだな。」
ちがうよ、彼はちょっと怒って言った。テツじゃないよ、どこがテツなんだよ、と。
「テツ」とは、「鉄道マニア」のことである。いくつか分類があり、撮りテツ(鉄道写真マニア)、時刻表テツ(電車・汽車のダイヤグラムを書くマニア)、駅テツ(全国の駅名を言えたりするマニア)、乗りテツ(とにかく電車・汽車に乗りたいマニア)などがあり、同じ「テツ」でもその趣味がかぶることすらほとんどないというマニアックなマニアである。
そのなかでも、どうも彼は「乗りテツ」らしい。そういえば、駅に行けば必ずトイレに行き、ジュースを買い、ベンチに座っていた。駅の施設を使いたがるのは「乗りテツ」の特徴である。
しかし今回の旅行は、資金を考えるとどうしても交通手段は夜行バス。それがわかってからの彼の機嫌の悪いこと悪いこと。飛行機にも乗らず、電車にこだわってきたことがほこりであるらしい。マニアのことはわからない。あんまり不機嫌なので旅行をやめようかとも提案したが、それはいやなようで、いまこうして夜行バスの出発を待っている。
イスはどう?ムラヤマは面白がって聞いた。こんなイス、Dなんとかかんとかに比べたら最悪だよ、彼は自ら「テツ」であるとみとめる発言をした。ムラヤマはもう面白くなっていちいち彼に夜行バスの感想を聞いた。車の振動、イスのリクライニングの角度、毛布のよしあし、乗務員の対応。しまいには前に座ってるおじいさんの老人臭についてまで。
夜が明けて、バスはのんびり目的地に着いた。
どうだった?夜行バス、ムラヤマがきくと、悪くない、不本意そうに彼が言った。ムラヤマは大爆笑だった。