夜行バス予約のとき

あてのない旅の支度

ふらりと、大学の生協にあるチケットセンターに寄った。
どこかに行きたかった。あるいは、行きたいような気がしたから。
おじさんが私に気付き、声をかけた。
ひととおり商売文句を言ってから、おじさんは言った。
「で、どちらへ?」
決めてないの、私は困った顔をしてみせた。
ていうか、行くかどうかも決めてないの、と。

おじさんはうーんとうなって横を向いた。
「なんか、嫌なことがあったのかい?」
ちょっと気を使いながらおじさんは私に聞いた。
べつにない、しいていうなら、いまどきの若者の無気力症じゃないかな、私は答えた。
君は頭がいいね、おじさんが言ったから、そんなことない、と答えた。

「そういうときは、行ってみるのもいい」
ノートのようなものをぱらぱらめくりながらおじさんは言った。
「ちょっと、変わった旅行をするんだ。楽しいよ」
楽しい、か。そんなこと、ここしばらく思っていない。
どんな?私が聞くと、そうだな、夜行バスなんてどうだい?とおじさんは言った。
「乗ったことあるかい?安いし、女性にも安心だよ」
夜行バス、乗ったことない、私が言うと、おじさんはにこにこして、よし、決まり、といった。
「思い切りさぼって、楽しんでおいで。帰ってきたら、もうそんな顔してないから」
大阪行きの夜行バスのチケットをもらって、私はしばし考えた。
うん、行ってくる、私が言うと、おじさんは、帰ってきたらまたきてね、と笑った。