夜行バス・出会い・別れ

結局、私の骨髄も適合しなかった。
彼は出発する前の夜行バスの前で、困った顔をして笑っていた。家族がそろうのは、何年ぶりだろう、皮肉だな、兄貴が死ぬときまでみんなてんでバラバラなんてな。
彼の2番目のお兄さんは有名大学の理工学部をでたが、仕事につかず、フリーターをしていた。
結婚するのにお金が欲しいと、ある原子力発電所の内部の清掃の仕事をしていた。そして、急性の白血病になった。まだ24歳。会社から、お金は出なかった。家族の誰とも、骨髄は適合しなかった。死期が近い。もう、本人は正気を保っていないという。看病は、母親と、結婚する予定だった、敬虔なキリスト教の信者であるお兄さんの恋人がしている。それはいったいどれほどの苦しみなのだろう。
日が暮れる。バスが出る。ムラヤマは悩んでいた。なんていって送り出せばいいんだろう?次にあうとき、彼は3人兄弟から2人兄弟へと変わっているのだ。
だいじょうぶだよ、2番目の兄貴とはそんなに仲良くなかった、彼はそっぽをむいていった。
そんなはずはない、昨日だってお兄さんに渡してくれ、と大量の荷物やパソコンや機械の部品のようなものをお兄さんのお友達たちから預かっていた。みんな彼をほんとの弟のようにかわいがっていた。
日が落ちる。バスが出て、彼が目的地に着いたら、そこで危篤の若い青年が命を落とす。ムラヤマは祈った。神様、もしいるのなら、その筋書きの1つでいいから、待ち構える苦しみのシナリオを変えてください。本気で祈った。
じゃ、バスが出るから、彼は早めにバスに乗った。ひとりで泣きたかったのかもしれない。
定刻に、バスは出た。ムラヤマはそれを見送り、終電までずっと空を見ていた。バスが目的地に着く前に、せめてどうか星が流れませんようにと祈りながら。